2008年04月21日

永六輔氏への伝言。「美しい日本語」「弱者救済」に関する疑問。

4月19日毎日新聞のコラム、「永六輔その新世界」を読んだ。
TBSラジオの永六輔氏は、私がラジオを聴き始めた中高生の頃から尊敬の対象であった。
作詞家としての才能だけでなく、尺貫法改正に対して戦ったこと。そして、多くの交友関係、テレビに対して一定の距離を保つ姿など、彼を尊敬しつつ、ラジオを聴いてきた。
だが、最近の私は、彼の言論について、そして、言論者の有様について、それでいいのか…。という疑問がわいてきている。


毎日新聞のコラムでは、ふたつの主張をしている。「美しい日本語を伝承しよう」、「常に弱者救済の立場から発言する」。

私は、永六輔氏を老いたな。とは思わない。ただ、時代がどう進んでいて、その中で年長者がどのような言論を紡ぐかは、その先の時代にとって重要だと思っている。だから、老境いちじるしい彼が、その類希なる発信力によって、新たなる視点で言論すれば、世の中のものの見方も変わっていくのではないかと期待するのである。



司馬遼太郎氏の「翔ぶが如く」を読んでいるが、薩摩人気質に「言葉を信ぜず、心を信じる」というのがあると、司馬氏は指摘する。薩摩の伝統では、論理・弁舌を好むことは武人として恥じることだった。その伝統の中で、若い武士たちは、潔いこと・勇気・弱者を助けること。を理想に修練していった。
薩摩人にとって、勇気を持って困難に立ち向かうことが第一であり、強者になっても、弱者を救済することは、その結果において心がけるべきことであって、それが第一の目標ではない。そして、強者になる者など、ほんのわずかなのだから、たいして問題にもならなかっただろう。
だが、である。

世の中が、「日本語を大切にしよう」、「弱者を救済しよう」を第一に営まれてしまったらどうなるか。
そして、そういうことが戦後継続的に行なわれた結果どうなったか。そのことに考えたとき、昭和一桁の永氏が、言い続けてきたことの是非が問われるのではないか。と、深く思うのである。

薩摩では、ぶっきらぼうな物言いが多く、言葉に美しさを競うという風はない。

つまり、マスコミを中心に喧伝される「日本語を大切に、美しく」とは、反薩摩的な文化であって、必ずしも絶対的な理想ではない。




具体的にいえば、日本語の美しさを誇る小中学生のコンクールがある。その優勝者の奇矯さを感じないなら、現代人とはいえないだろう。永氏も私も尊敬してやまない沢村貞子氏が、石垣綾子氏の日本語などしゃべれないと言ったのは、沢村氏の出自が町民であり、石垣氏が上流階層出身だったことに起因するだろう。考えてみれば、言葉は心を表現するものであり、言葉によって心が表現されるのではない。

山の手のザーマス言葉が慇懃に聞こえる人もいれば、下町言葉が乱暴に聞こえる人もいる。その一方で、ザーマス言葉が上品に聞こえる人もいるし、下町言葉がキップが良く聞こえる人もいる。

ことは、自らの帰属集団・階層へのプライドの欠如にある。平等という理想が広がる中で、部分集合がアイデンティティーを失っている。


結果、分不相応な言葉遣いが巷間に溢れ、見苦しい。



本来、日本語は多様であり、「美しい日本語」の語義も定義しないまま、美しい日本語を喧伝することは勿論のこと、そして、美しい日本語の定義をし始めれば、必ずや日本社会の多様性を認めなければならぬことになる。

そこで、職人言葉や、お役所言葉に優劣がつくのか。奥様言葉と下女の言葉づかいに優劣がつくのか。ということになる。結果、現在の中高生の言葉遣いの立ち位置というものも変わってくるだろう。

あらためて指摘するまでもないが、「籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人、捨てた草鞋を拾う人」という俗諺で、一番楽珍なのは、捨てた草履を拾う人だった。それが江戸時代のエスプリである。



弱者救済の種々の制度が、弱者をその場にとどめ続ける要因になったことを、私たちは知っている。さまざまな被差別な人達が、人権を元に傲慢に振舞い地方行政を腐敗させていったことは周知の事実である。

ならば、弱者救済とは、オタメゴカシのスローガンでしかなく、あるべきは、弱者をつくらない制度や、弱者を強者に導く助言ではないだろうか。福祉では、ケア(助ける)からノーマライゼーション(一般化)へと、ムーブメントが変わった。言論における「弱者救済」という言葉も、個の多様性のが広がる中で、「多様性を社会に活かす」などと、言い換えるべきだろう。
posted by sponta at 13:07| 東京 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | ウェブメソード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
書いてから10年が経つが、たんなる「あまのじゃく」といえるのだろうか・・・。
Posted by at 2018年02月22日 22:29
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