2015年11月21日

娘とミュージカル鑑賞をする。

我が家で一番の可処分所得がある娘にオゴラレテ、ミュージカル「プリンス・オブ・ブロードウェイ」を観た。



キッカケは、深夜テレビを観ていたら特集をやっていて、「当日券があります」と連呼していたから。
予約する段、娘は「パパと一緒にニューヨークにミュージカルを見に行くことは多分ないだろうし、それを考えれば安い」と、嬉しいような悲しいような発言。

*

ブロードウェイミュージカル、または、ミュージカル映画に興味がある人なら、演出家・プロデューサーのハロルド・プリンスの名前を知っているだろう。
彼の名前は、ラーナー&ロウ、リチャード・ロジャース&オスカーハーマンスタイン二世、ジェローム・ロビンス、ボブ・フォッシー、アンドリュー・ロイド・ウェバーとならぶビッグネームであり、歴史上の人物である。



今回の私が、この作品を娘に薦めたのは、「世界最高峰の演出家が選んだミュージカル俳優はどういうものか?」を生で鑑賞するためである。

ハロルド・プリンスが不世出の演出家・プロデューサー(ミュージカルの最高決定権者)なら、「(俳優のスケジュールに捉われない)彼の理想のキャスティング(世界初演であり、彼の名前を冠したタイトルだから…)」を観れるのは、彼が87歳とすれば、今回が最後ということ。

そして、終演後、娘に言ったのは、「ミュージカルを30本観たとしても、このような感動は得られまい」ということ。

Prince of Broadway

●Introduction
Celebrating one of the most influential and successful careers in the American theatre of the past 60 years, Prince of Broadway will look at the circumstances and fortune, both good and bad, that led to Hal Prince creating some of the most enduring and beloved theatre of all time, including The Pajama Game, West Side Story, Fiorello!, Fiddler on the Roof, Cabaret, Company, Follies, A Little Night Music, Sweeney Todd, Evita, and The Phantom of the Opera, the longest-running show in Broadway history. This extraordinary musical premieres in Japan, before anywhere else in the world!!


●Cast(alphabetical order)
Josh Grisetti, Shuler Hensley, Ramin Karimloo, Nancy Opel, Bryonha Marie Parham, Emily Skinner, Mariand Torres, Kaley Ann Voorhees, Tony Yazbeck, Reon Yuzuki

Voice Cast as Harold Prince: Masachika Ichimura

*Please understand that the part of the show and casts might be changed to substitute due to cast's illness or any other reasons.

●Date and Venue
October 23-November 22, 2015 at Tokyu Theatre Orb in Tokyo, Japan


■Act One■

♪オール・アイ・ニード・イズ・ワン・グッド・ブレイク(『フローラ、赤の脅威』より)
"ALL I NEED IS ONE GOOD BREAK"from Flora, the Red Menace.

♪ハート(『くたばれ!ヤンキース』より)
"HEART"from Damn Yankees.

♪ワットエヴァー・ローラ・ウォンツ(『くたばれ!ヤンキース』より)
"WHATEVER LOLA WANTS"from Damn Yankees.

♪サムシングス・カミング(『ウエスト・サイド・ストーリー』より)
"SOMETHING’S COMING"from West Side Story.

♪トゥナイト(『ウエスト・サイド・ストーリー』より)
──ラミン/ケイリー
"TONIGHT"from West Side Story.

♪トゥナイト・アット・エイト(『シー・ラヴズ・ミー』より)
"TONIGHT AT EIGHT"from She Loves Me.

♪ウィルー・ヒー・ライク・ミー?(『シー・ラヴズ・ミー』より)
"WILL HE LIKE ME?"from She Loves Me.

♪ユーヴ・ガット・ポッシビリティーズ(『イッツ・ア・バード…イッツ・ア・プレイン…イッツ・スーパーマン』より)
"YOU’VE GOT POSSIBILITIES"from It’s a Bird…It’s a Plane…It’s Superman.

♪ビューティフル・ガールズ(『フォーリーズ』より)
"BEAUTIFUL GIRLS"from Follies.

♪ウェイティング・フォー・ザ・ガールズ・アップステアーズ(『フォーリーズ』より)
──トニー/シュラー/エミリー/ナンシー/ジョシュ/マリアンド/ケイリー/ラミン
"WAITING FOR THE GIRLS UPSTAIRS"from Follies.

♪ライト・ガール(『フォーリーズ』より)
"THE RIGHT GIRL"from Follies.

♪センド・イン・ザ・クラウンズ(『リトル・ナイト・ミュージック』より)
"SEND IN THE CLOWNS"from A Little Night Music.

♪イフ・アイ・ワー・ア・リッチ・マン(『屋根の上のヴァイオリン弾き』より)
──シュラー
"IF I WERE A RICH MAN"from Fiddler on the Roof.

♪ファー・フロム・ザ・ホーム・アイ・ラヴ(『屋根の上のヴァイオリン弾き』より)
"FAR FROM THE HOME I LOVE"from Fiddler on the Roof.

♪ヴィルコメン ? イフ・ユー・クッド・シー・ハー(『キャバレー』より)
──ジョシュwithナンシー
"WILLKOMMEN" (Segue) "IF YOU COULD SEE HER"from Cabaret.

♪ソー・ワット?(『キャバレー』より)
"SO WHAT?"from Cabaret.

♪キャバレー(『キャバレー』より)
"CABARET"from Cabaret.

♪ファントム・オブ・ジ・オペラ(『オペラ座の怪人』より)
──ラミン/ケイリー
"THE PHANTOM OF THE OPERA"from The Phantom of the Opera.

♪ウィッシング・ユー・ワー・サムハウ・ヒア・アゲイン(『オペラ座の怪人』より)
"WISHING YOU WERE SOMEHOW HERE AGAIN"from The Phantom of the Opera.

♪ミュージック・オブ・ザ・ナイト(『オペラ座の怪人』より)
──ラミン/ケイリー
"THE MUSIC OF THE NIGHT"from The Phantom of the Opera.

■Act Two■

♪♪カンパニー(『カンパニー』より)
──ラミン/ケイリー/ジョシュ/マリアンド/シュラー/ナンシー/エミリー/トニー
"COMPANY"from Company.

♪ドント・クライ・フォー・ミー・アルゼンティーナ(『エビータ』より)
──マリアンド
"DON’T CRY FOR ME ARGENTINA"from Evita.

♪ブロードウェイ・ベイビー(『フォーリーズ』より)
──エミリー
"BROADWAY BABY"from Follies.

♪キス・オブ・ザ・スパイダー・ウーマン(『蜘蛛女のキス』より)
──礼音
"KISS OF THE SPIDER WOMAN"from Kiss of the Spider Woman.

♪バラード・オブ・スウィーニー・トッド(『スウィーニー・トッド』より)
──シュラー/ナンシー/カンパニー
"THE BALLAD OF SWEENEY TODD"from Sweeney Todd.

♪キャント・ヘルプ・ラヴィン・ザット・マン(『ショウ・ボート』より)
──ブリヨーナ/ケイリー
"CAN’T HELP LOVIN’ THAT MAN"from Show Boat.


この作品は、旧作品のミュージカルチューンばかりを集めた「ツギハギ」であり、本筋のミュージカルファンからいえば、「芸術的な価値の低い作品」と思われるかもしれない。

具体的にいえば、登場人物が持つ「アンビバレンツ(葛藤)」はないし、ミュージカル作品本体が描出する「劇的世界観」は希薄である。
再現されるミュージカルの美術にしても、「具象的な表現」ではなく、「象徴的な表現」で簡素。大作ミュージカルを観てきた観客には物足りないかもしれない。


しかし、そこにこそ、「ハロルドプリンスが何を目指して、ミュージカルをプロデュースしてきたか」がよく分かる。

それは「歌」であった。
または、「歌を通じた感情表現(演技表現)」・「歌を通じた劇的表現(演出表現)」と言った方が正しいのかもしれない。




娘と「エンタメ作品の評価基準」について研究している。
私は娘に「予習が大事」と、言ったのだが、動画制作のために行えなかった。予習は、公式ウェブサイトと、リハーサルの動画を見るぐらい…。



http://pobjp.com/

この作品には、日本人から唯一・柚希礼音(元宝塚)さんが出演している。(私は宝塚ファンではないので、知らなかったが、)今年16年間の宝塚生活を終えての出演とのこと。宝塚とブロードウェイ。ふたつの文化が観れたこと。さらにいえば、彼女を活かすために、「演出家が何をしたか」が想像できて面白い。
番組宣伝で観た「宝塚特有の作り物感」が、本番の舞台ではかなり希薄になっていた。

日本人が評価しがちな「キレ系」のダンスではないが、抜群の柔軟性を持っており、情趣にあふれていたと思う。「(何かというと)すぐに脱ぐ」というテンドンも、彼女の茶目っ気な本性を活かしていたと思う。何よりも、オープンマインドで、世界最高峰のミュージカル俳優達の中に入っていき、自分を変えていったことは、明らかであり、彼女をずっと観てきたファンには感慨もひとしおだったに違いない。
彼女が歌う「蜘蛛女のキス」の曲に娘は不満だったようだが、私としては十分楽しめた。娘は、歌に関して私よりも厳しい評価基準(音程感・リズム感・発声法)を持っているから、厳しい評価になる。

私は、「日本人がどこまで行けるか」につき、諦観があるが、娘には、諦観が無く、理想を求めているのかもしれない。

はっきり言ってしまえば、プリンスがオムニバスに選んだダンスシーンは、宝塚女優のダンス(デュエット)を除くとタップダンス(ソロ)のみ。プリンスは、ボブ・フォッシーやジェロームロビンスのような振り付け師系の演出家ではない。(私は、(文学座系)演劇系演出家・(日劇系)振り付け師系演出家の作業を身近に接していたことがある…)





劇団四季の廊下には、「一音落とすものは去れ」との標語が貼られているという。しかし、このステージを観れば、そのスローガンが如何に愚かなものかが分かる。一音を気にするような「置きにいっている」俳優は一人としていない。

日本の劇団員たちが、一番最初に修行するのは、「腹式呼吸」である。しかし、「腹式・胸式」が争点になるような発声法はまったく存在しない。
(20年以上前、ミュージカルの現場にいた事があり、当時、新人だった人が、現在、東宝ミュージカルに出演しているが、そのような才能は、まさに腹式・胸式の違いを感じさせない。というか、「いかにも腹式で発声しています」というような捏造感のある発声はNG。


「俳優座(仲代達矢)・文学座(奈良岡朋子)のような発声法」なら、地声の方が「自然らしく」はるかにまし。先日も、NHK「ブラタモリ」のナレーションのクサナギ君を「いいなぁ…」と思ったが、そういうこと。名ナレーションといえば、FM東京の「ジェットストリーム」の城達也氏が思い浮かぶが、それはあくまでも詠嘆調であり…。勿論、現在の大沢たかお氏は噴飯ものである。)

(私はスピードラーニングをやっていないので、英語があまり聴き取れないが)だからこそ、言語を越えて、俳優が「いかなる感情」を表現しようとしているかが気になる。というか、シニフィアンとシニフィエ(意味を託すものと、託される意味)を歌・演技の中に探すのである。しかし、そこに「何の不満も感じない」から、左右の袖にある「字幕」を見ることは、一曲のうち、一度か二度。

*

このあたりは、古典主義・ロマン主義・新古典主義・形式主義・象徴主義・抽象主義・具象主義・素朴主義など、さまざまな芸術の潮流を理解した上で論じると、「形式主義的な品質も充実」であり、「ロマン主義的な満足」もある。

形式主義とは、「セリフ・歌・芝居」のみを追求することであり、ロマン主義とは、「それらに託された感情」を愛でることである。

つか、歌物語における「地の文がない」に等しいこの作品の構造は、極めて「形式主義的」であるが、そのことが逆に「ロマン主義的」な特徴を印象付ける。

作品冒頭は、舞台裏の「綱元」をイメージさせるセットデザイン。その後は、すべて作品世界。最後になって、「ブロードウェイの未来」を感じさせる曲になると、「素のホリゾント」にフラット(白)な照明。

*

私は(一貫して貧乏生活。したがって)来日ミュージカルを観ることなどないから、(娘のようにウエストエンドで観劇したことなどない。日本のミュージカルにしても20〜30本。したがって、)ミュージカル映画で本場に触れてきたに過ぎない。映画「マイフェアレディー」の歌は、オードリー・ヘップバーンではなく、「吹き替え」なのだが、「ただ、キレイなだけという物足りなさ」があった。

高音であれば、当然、倍音構成は希薄になる。そのことが、歌の深みを希薄にする。その時、優劣をつけるのは、「何か」。「子音の美しさ?」。「感情表現?」。高音は、感情表現的にはすでにフォルテシモだから、そこでのヤリトリはできない。
カーレースでいえば、メインスタンド前の直線で、アクセルペダルを踏み切ることしかできない。ではそこで何が「優劣を決めるのか?」。

私が感じたのは、「喉の鳴り(潤い)」というシズル感の存在である。それは、ブルースシンガーのシャウトのようなものであり、高等テクニックと感じさせた。

♪トゥナイト(『ウエスト・サイド・ストーリー』より)
──ラミン/ケイリー
"TONIGHT"from West Side Story.

こちらは、そのケイリーさんの歌声。



YouTubeからは、なかなかそこまで聴き取れない?



さて、インターミッション。娘は興奮気味に、「運命的な再会」を口にした。

というのも、高校の音楽の授業でDVDで観て感動した、「オペラ座の怪人・25周年記念・ロイヤルアルバートホール公演」の怪人役の俳優が、今回の主演ともいえる彼だったこと。
つまり、ハロルド・プリンスが、過去の20年間の公演でベストの俳優として選んだのが、彼だった…。



「名前で分からず、歌で分かった」というのは、凄い。というか、「何故、名前を覚えていない…」という、娘の粗忽されが露呈され…。

一幕の最後、「オペラ座の怪人」の最後のシャウトで凄いと言うが、私の鑑賞力では、「シャウトでは違いがあまり分からない」。そこで、小品での歌唱で彼の実力を確信し、TUTTIの時に、彼の声が際立っているのを感じる。さらにいえば、ステージ構成が、すべて彼を中心に回ってることを知る。

娘は感動のあまり、帰りがけに、彼が出演したミュージカルのDVDを購入し、家に帰ると、彼のソロコンサートの予約をした。彼と一緒に仕事をすることを「人生の目標」にするなら、無駄な投資ではないだろう。



それにしても、野球でいれば、「オールスター戦」のような作品が、それほど話題にもならず、公演されているのは驚きである。結局のところ、芸能ジャーナリズムというのが無くなってしまい、あるのは宣伝のみ。そういうことなのかもしれない。


追記:
最近の私は、グルーヴ系の音楽しか受け付けない状況になっており、音楽を聴くと、まず「グルーヴしているか、そうでないか」が気になってしまう。とはいえ、「けっして、グルーヴではないが、不満足ではない」。つか、歌手にとって、「楽曲の音域が、声域に合っているか」が、とても重要であることを感じることができた。つまりは、「あんなに凄い人」に、ほんの少しの翳りが見えたなら、それは「音域が合っていない」せいとしか考えられないから…。因みに、娘は(ドラム出身だから)ドラム&パーカッションの鳴りが気になるよう。

こんなに凄いものを観てしまうと、「もう他のものが観れない」。事実、マチネから戻った我が家でテレビをつけると、「ミュージックステーション」でAIKOが歌っていた。1分を経ずして、音量は最小に下げられることになった。

「ミュージカル俳優をめざさなくてよかったね」と、私は、娘に嘆息した。

posted by スポンタ at 09:41| 東京 ☀| Comment(0) | スポンタと娘…。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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