2009年03月31日

小説先祖供養_96

…。

「私は聖訳大学の教授でありますが、同時に禅宗の僧侶でもありますので、加持祈祷をはじめとする密教的手法にも関心があります。しかし、最近ではそれだけではなくて、カルト教団がオカルト的儀式によって現世利益をもたらすといって、詐欺まがいの布教活動を行っている。被害総額が何十億円という詐欺事件も起きている。そのような現代にあって、人間科学学会は、そうした行為を正しいもの間違ったものに峻別するのではなく、そうしたものの本質に迫っていくことであると、私は思っています。ですから、今後はこの学会でも、その辺りのことは研究課題として、諸先生方にも大いに取り組んでいきたいと願っております。それでは、時間がまいりましたので、閉式の言葉を会長にお願いしたいと存じます」
 質問者の男性は突然の閉式宣言に悄然とした。会長の閉式の言葉は二言、三言で終わり、壇上の教授たちは、「やれやれ、これで今日の学会も無事に終わった」という安堵の表情を隠さずに退場していった。
 映画を観に行くと、映画が終わりエンドマークが出た後に、長々と続くエンディングクレジットを眺めていることがある。そういう場合は、その映画が素晴らしく、すぐに席を立つとその感動の余韻が逃げてしまうと感じるからだが、この日の私を捉えて話さなかったものは、全く逆の感情だった。
 ホールの片隅で、ラップマン教授が立ち話をしている。
「先生。今日の学会は最悪でした。僕は古典文学や宗教学の講義を聞きに来たんじゃないんです。学問が科学的という物の見方に拘らないで、スピリチュアルな世界に挑むのが人間科学学会だと期待していたんですが、ほんとうに裏切られました」
 ビデオの撮影で会ったことがあるラップマン教授は私を覚えていたようだ。
「僕もわざわざ神戸からやってきたのに、まったくがっかりしたよ」
「そうですか」
「人間科学学会も、もっと活きのいい若手研究者を講師に迎えないと駄目だね」
 ラップマン教授は、臨死体験の世界的権威である。彼は末期癌患者のターミナルケアの経験から、臨死体験の研究に手を染めた宗教学者である。最近では、宗教的治癒と名づけて、ハンドヒーリング(手かざし)について研究を進めている。彼は現在の学問の中で決定的に遅れている分野の旗手であり、その学問の必要性を一番感じている。
「実は、私の妻が霊能者なんです。それで、先生の本も読みましたし、先生に協力したいんです」
「君は有名になりたいっていうこと?」

posted by スポンタ at 22:55| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・先祖供養 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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