2009年03月29日

小説先祖供養_94

オンレコでは唯物論しか語れない。

 私はあるラジオ番組を思い出した。その番組では、小学生ラジオ電話相談というもの。ある日の放送では、かおりという名前の女の子から次のような質問があった。
「霊の世界は本当にあるんですか?」
 電話を受けた司会の女性アナウンサーは、やさしい声で、
「さぁ、どうなんでしょうねぇ。ねぇ、かおりちゃんはどこでそういうことを知ったの?」
「あのね、本とか雑誌とかそういうの」
「分かりました。それではどの先生にお伺いしましょうか?」
 女性アナウンサーは、この日の回答者の顔色を伺ったのだろう。そして、アニメ番組の人気キャラクターを演じることで知られるベテラン声優を指名した。指名された彼女は、人気キャラクターの声色で小学生に語りかける。
「ねぇ、かおりちゃんは霊の世界ってあると思う。それともないと思う?」
「わたし、よくわからないの」
「そう。かおりちゃんは今、小学校の何年生かな?」
「三年生です」
「そう。だったら、今は運動とか勉強とかやらなければならないことがいっぱいあるでしょ」
「はい」
「そうよね。だから、今はそういう学校で習ったことを一生懸命勉強することや、お友達と仲良く活動することが大事だと思うの」
「?……」
「だから、かおりちゃんも今はそういうことをあんまり考えない方がいいんじゃないかしら」
 人気キャラクターの声色を使っていた人気声優は、いつの間にか普段の声に戻っていた。
「かおりちゃん分かった?」
「はい。分かりました」
 女の子は、回答者の勢いに押されて、少しこわばった声で応えた。
「ありがとう。そうね、おばさんもよく分からないけど、私は霊の世界っていうのはないと思うわ」
 話が澱んだ感じになったので、女性アナウンサーが言葉を発する。
「かおりちゃん。それじゃ、勉強がんばって」
 すると、女の子は、まるで事前にそういう約束ができていたかのように、「ありがとうございました」と応えた。
 声優なんていいかげんなものさ。と私はその時思ったのだが、その思いは次第に変容していく。
 声優の彼女があのように応えたのも無理はない。ラジオという公の放送で霊の世界を肯定することはできない。それは、「非科学的なことを喧伝してはならぬ」と放送法でも規定されている。妙なことを言おうものなら、忽ちにマスメディアから追放されてしまう。
 こどもは大人以上にお化けを怖がったり、幽霊を怖がる。その理由は、こどもたちが科学という知性を身に着けていないからだろうか。それとも、こどもたちが童話や怪談の中の出来事を現実の出来事と錯覚してしまう幼稚さを持っているからだろうか。
 声優の女性が、「わたしは霊の世界なんてないと思うわ」ときっばりと言ったのも、質問者の女の子の悩みを解く効果があるのかもしれない。ないと言われてしまえれば、幽霊の正体見たり枯れ尾花という俗諺同様、質問をしてきた小学生の女の子は気持ちに整理をつかせることができる。だが、声優の彼女自身、霊の世界の存在を果たして信じていないのだろうか。
 肉親の死や葬儀や供養の経験から、霊の世界を実感することはよくあるものだ。それは、私のように霊的能力を持つ妻を持たなくても、同様のはず。否、霊的世界がまったくないと認識したら、仏壇にもお墓にも手を合わせることはできぬ。
 もし、声優の彼女が本当に霊の世界がないと思っているとするなら、それは、不思議な世界に対する恐ろしさから、それがないと自分に言い聞かせているだけなのかもしれない。だが、質問をした小学生と素直なリスナーたちは霊の世界は存在しないと思い込んだに違いない。
posted by スポンタ at 06:43| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説・先祖供養 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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